春になるとなぜか風景が薄ぼんやりとパステルトーンに見えるのはなぜでしょうか?
花が咲き、新芽が伸びて、明るくやさしい色彩が多いのも理由のひとつかもしれません。
『春霞』という言葉をご存じでしょうか?
春に立つ霞のことで、この薄ぼんやりとした春の景色を表現することばで【春の季語】です。
今回は、この『春霞』について解説します!
『春霞』意味
『春霞(はるがすみ)』という言葉は【春の季語】で、意味はつぎのとおりです。
春に立つかすみのこと。
(出典:旺文社 国語辞典)
ちなみに『霞(かすみ)』とは、細かい水滴や粒子が集まり、白色の帯状にたなびいて、空や遠方がぼんやりと見える現象のことをいいます。
『霞』も【春の季語】で、『春霞』とともに、『三春(みはる・さんしゅん)』
(立春の2月4日頃~立夏の5月6日頃まで)の季語になります。
語源・由来
『春霞』という【春の季語】は、奈良・平安時代の大和や山城の山々の実景が元になって生まれたことばと言われています。
ここでひとつ、『春霞』にちなんだ和歌をご紹介したいと思います。
平安時代の歌人・在原業平の詠んだ歌です。
(春の女神の霞の衣は、横糸が弱いので山風に乱れるようだ)
『古今集』
なんとも繊細な情景を表現した歌でしょうか!
さっと『春霞』の風景を切り取り、それをまるで細い絹糸と見立て、横に流れて漂うさまを表現しています。情景が目に浮かびあがってきます。
『霞棚引く(かすみたなびく)』という【春の季語】もありますが、春に漂う霞のはかなさは、はるか昔の日本の人々の心をとらえていたことがとてもよく伝わります。
ちなみに、七十二候には、つぎのような『霞』を表現した言葉があります。
こちらは、二十四節気の『雨水(うすい)』の二候(次候)のことばになります。
おおむね、新暦で2月24日~28日の初春のころをいいますが、この時期は、霞が薄く層をなすようにただよい始めます。そのようすをあらわした言葉です。
霞って、春特有の
現象にゃんだなぁ。
つぎは『春霞』の使い方を
紹介するにゃ!
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『春霞』使い方
こちらでは、『春霞』という【春の季語】の使い方や類語をご紹介します。
類語
『霞』という言葉は【春の季語】になりますが、【春の季語】には、『春霞』のように、『霞』にかんする言葉が数多くあります。
こちらでは、『霞』にかんする【春の季語】を一覧でまとまめした。
季語 | 読みかた | 意味 |
朝霞 | あさがすみ | 朝にたつ霞のこと。《春の季語》 |
有明霞 | ありあけがすみ | 明け方の霞。《春の季語》 |
薄霞 | うすがすみ | 薄くかかった霞のこと。《春の季語》 |
朧 | おぼろ | はっきりしないさま。ぼんやり霞んださま。《春の季語》 |
霞の海 | かすみのうみ | 霞のかかっている海のこと。または、霞が一面にかかっているのを海に見立てていう。《春の季語》 |
霞の奥 | かすみのおく | 霞が立ち込めた山奥のこと。《春の季語》 |
霞の底 | かすみのそこ | たちこめている霞の最も奥のこと。《春の季語》 |
霞の波(浪) | かすみのなみ | 霞を波にたとえていう。《春の季語》 |
霞の帯 | かすみのおび | 霞が立ち込めることを帯にたとえていう言葉。《春の季語》 |
霞の空 | かすみのそら | 霞がかった空のこと。《春の季語》 |
霞の棚 | かすみのたな | 霞が棚のようにかかっているさまをいう言葉。《春の季語》類)棚霞 |
霞の谷 | かすみのたに | 霞のかかった谷のこと。《春の季語》 |
霞隠れ | かすみがくれ | 霞に覆われること、または、霞の中に隠れること。《春の季語》 |
霞立つ | かすみたつ | 霞がかかること。《春の季語》 |
霞棚引く | かすみたなびく | 霞がうすく層をなして横引きに漂うこと。 《春の季語》 |
横霞 | よこがすみ | 横に棚引く霞のこと。霞がたなびいた風情をいう言葉。《春の季語》 |
霞敷く | かすみしく | 一面に霞み、霞み渡ること。《春の季語》 |
霞渡る | かすみわたる | 一面に霞む、全体に霞がかること。 |
霞 | かすみ | 微小な水滴が空中に浮遊して視界が遮られ、物がぼんやりと見える現象のこと。《春の季語》 |
霞む | かすむ | 霞がかかること、霞が立ち込めること。《春の季語》 |
鐘霞む | かねかすむ | のどかな春の日に、遠くから鐘の音が霞むような感じに聞こえること。《春の季語》 |
草霞む | くさかすむ | 春草の若芽が伸びているあたりが、かすむように見えること。《春の季語》 |
遠霞 | とおがすみ、 えんがすみ | 遠くにたなびいている霞のこと。《春の季語》 |
八重霞 | やえがすみ | 幾重にも立ち込める霞のこと。《春の季語》 |
叢霞 | むらがすみ | 群がりたつ霞のこと。むれ立つ霞。《春の季語》 |
花霞 | はながすみ | 満開の桜の花が、遠くからは霞がかかったように淡く見えること。《春の季語》 |
昼霞 | ひるかすみ | 日中に立つ霞のこと。《春の季語》 |
夕霞 | ゆうがすみ | 夕方に立つ霞のこと。《春の季語》 |
晩霞 | ばんか | 夕方に立つ霞のこと。《春の季語》 |
靄 | もや | 大気中に無数の微小な水滴が浮遊し、遠方がかすんで見える現象のこと。空中にたちこめる霧または煙霧のこと。 |
『朧』との違いは?
『朧(おぼろ)』ということばをご存じでしょうか?
なんとなくことばを知っていても、具体的にはことばの意味を説明できない場合も多いのではないでしょうか?
ちなみに『朧(おぼろ)』の意味は、つぎのように記載があります。
霞や雲などにより、月や山などの景色がぼんやりかすむさま。薄く曇っているさま。
(出典:精選版 日本国語大辞典)
このように『朧』は、景色がぼんやりと霞むさまをあらわしています。
春になって気温が上がると、上昇気流が活発になり、微細な水滴や埃が上昇して大気の見通しが悪くなるのが原因のひとつといわれています。
実は、このように景色がぼんやりと霞む状態を、昼間では『霞』といい、
夜は『朧(おぼろ)』と呼びます。
呼び名は違いますが、どちらも同じ状況をさしています。
どちらも素敵な言葉ですよね。このような言葉を使うと、情緒豊かに感じるから不思議です。
このように『霞』と『朧』の違いは、昼と夜の違いだけです。
微細な粒子や水滴による、空気中の見通しがぼんやりとする現象は、時間帯を問わず、春特有の大気現象なのですね。
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『靄』や『霧』との違いは?
『靄(もや)』や『霧(きり)』という現象も、『霞(かすみ)』と似たイメージがありますよね。
こちらでは、『靄(もや)』や『霧(きり)』と『霞(かすみ)』の違いを解説します!
はじめに『靄(もや)』の意味をご紹介します。
空中に立ち込める霧または煙霧のこと。
(出典:旺文社 国語辞典)
『靄(もや)』とは、大気中に無数の微小な水滴が浮遊して、遠方がかすんで見える現象のことをいいます。
このように『霞(かすみ)』とほぼ同じような現象ですが、
『靄(もや)』は、『霞(かすみ)』よりも湿度が低く、視界が悪いのが特徴です。
さらに似た現象で『霧(きり)』という言葉もありますが、『靄(もや)』との違いは何なのでしょうか?
『霧(きり)』の意味は、つぎのとおりです。
水蒸気が地上近くで凝結し、その細かな水滴が煙のように地上をおおう現象のこと。
(出典:旺文社 国語辞典)
『霧(きり)』は視程1キロ未満のときのことを指します。
『靄(もや)』はおおよそ視程1キロ以上の場合をいいますので、『霧(きり)』よりも視界が悪い状況といえます。
このように、『靄(もや)』が一番視界が悪く、遠方が見えにくい状態といえます。
『霧』は【秋の季語】
あらためて『霧』の意味は、つぎのとおりとなります。
水蒸気が地上近くで凝結し、その細かな水滴が煙のように地上を覆う現象のこと。
(出典:旺文社 国語辞典)
『霧』は、春の『霞(かすみ)』と同じような現象になりますが、『霧』は冷たい大気に地上から立ち込め、冷やかにあたり一面に広がる印象です。
『霧』という言葉は【秋の季語】になり、【秋の季語】には、『霧』にかんする言葉がとてもたくさんあります。
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俳句
こちらでは、『霞』にかんする【春の季語】を使用した俳句をご紹介していきます。
『春霞』を使った俳句
高浜虚子
高澤良一
鷹羽狩行
『霞』に関する俳句
松尾芭蕉
三宅嘯山
飯田蛇笏
幸田露伴
芥川龍之介
細見綾子
上島鬼貫
三浦樗良
松尾芭蕉
宮津昭彦
まとめ
今回は、『春霞』をはじめ、『霞』にかんする【春の季語】について、ご紹介させていただきました。
春の景色がうすぼんやりして見えるのには、きちんと意味があり、日本語にはそのような風景を表現のことばがたくさんあることがわかりました。
ぜひ、春ののどかな薄ぼんやりとした景色を素敵な【春の季語】を使って、表現してくださいね!
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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